AIAG-VDA 統合FMEAとは?従来FMEAとの違いと実務への影響を解説
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AIAG-VDAとは何か 【FMEAの国際統一規格】

FMEAの運用において、近年最も大きなトピックといえるのが「AIAG-VDA 統合FMEA」の登場です。
しかし現状は、「新しい規格が出たことは知っているが、手順が増えて複雑そうだ」「具体的に何を変えればいいのか分からない」といったように、様子見や二の足を踏んでいる企業も少なくありません。
本記事では、なぜ今この規格が求められているのか、従来のFMEAと何が違うのかについて、実務への影響を中心にかみ砕いて解説します。
AIAGとVDA
AIAG-VDA 統合FMEAハンドブックとは、アメリカの自動車産業団体(AIAG)と、ドイツの自動車工業会(VDA)が合同で策定した、FMEAの新しい国際標準規格です。
AIAGとVDA、それぞれの役割
これまで、自動車業界のサプライチェーンには大きく分けて2つの流儀が存在していました。
一つは、AIAG(アメリカ系)が主導する「書き方(フォームへの記入)」を重視したアプローチ。
もう一つは、VDA(ドイツ系)が主導する「構造解析(システムとしての繋がり)」を重視したアプローチです。
これらは長らく別々の基準として運用されてきましたが、2019年に発行されたハンドブックによって、AIAG-VDA 統合FMEAとして一つの規格になりました。
なぜAIAG-VDA 統合FMEAが登場したのか
背景にあるのは、サプライチェーンのグローバル化と製品の複雑化です。
自動車部品の電子化や自動運転技術の進展に伴い、一つの部品がシステム全体に与える影響は複雑になっています。
従来の「各社バラバラの基準」ではリスク管理が難しくなり、またサプライヤー側も取引先ごとに異なるフォーマットに対応する負担が増大していました。
これらを解消し、世界共通の「リスクについて会話する言語」を作る必要があったのです。
関連コラム:FMEA(故障モード影響解析)とは?
IATF 16949と顧客固有要求事項

この「グローバル共通言語」への移行を決定づけているのが、自動車産業の品質マネジメントシステム規格であるIATF 16949の存在です。
IATF 16949の規格の目的は、不適合の予防と製造工程におけるバラツキおよび無駄の削減です。
このIATF 16949の認証において、FMEAの実施は必須要件ですが、規格の本文中で「必ずAIAG-VDAハンドブックを使いなさい」と明記されているわけではありません。
しかし、現実のビジネスにおいては、多くの自動車メーカー(OEM)が「顧客固有要求事項(CSR)」の中で、新規プロジェクトにおけるAIAG-VDA 統合FMEAの適用をサプライヤーに求め始めています。
つまり、形式上は選択の余地があるように見えても、実質的なグローバルビジネスの現場では、AIAG-VDA 統合FMEAへの対応が、自動車産業における国際的な品質マネジメントの必須条件となりつつあります。
AIAG-VDA 統合FMEAによる構造化されたリスク管理は、業務効率化だけでなく、品質保証と顧客満足に加えて、企業パフォーマンスの改善にも繋がり、取引条件(事実上の取引パスポート)にもなっているのです。
AIAG-VDA 統合FMEAとは|従来FMEAとの位置づけ

従来のやり方からの最大の変化は、FMEAを「帳票作成作業」から「技術的な分析プロセス」へと再定義した点にあります。
従来、FMEAといえば「Excelの表を埋める作業」と捉えられがちでした。しかし、AIAG-VDA規格では、この認識を変える必要があります。
この新しい規格において、FMEAフォームはあくまで最終的な「分析結果のレポート」に過ぎません。
重要なのは、その結果に至るまでの「思考プロセス」です。
最初から故障を書き出すのではなく、システム構造や機能を論理的に紐解く手順を重視することで、個人の経験則や勘に頼らない、抜け漏れのない堅牢な設計検証が可能になります。
AIAG-VDA 統合FMEAの基本的な考え方
従来のFMEA(AIAG 第4版など)では、いきなりExcel等の帳票に「故障モード」を記入し始めることが一般的でした。
一方、AIAG-VDA 統合FMEAでは、帳票を書く前に「その製品はどのような構造で、何をする機能なのか」を整理するプロセスが義務付けられました。
いわゆる「急がば回れ」の考え方であり、準備なしに書き始めることが、結果として抜け漏れや形骸化の原因だったという反省に基づいています。
従来FMEA(AIAG版)との違い

実務面での大きな違いは、リスク評価の指標が変わったことです。
従来は、影響度(S)×発生度(O)×検出度(D)の積である「RPN(リスク優先数)」を用いていました。
しかし、RPNには「重要度は高いが発生頻度が低い」場合に点数が低くなり、重大なリスクが見過ごされる恐れがあるという問題がありました。
AIAG-VDAではこれに代わり、「AP(アクション優先度)」を採用しています。
これは単純な掛け算ではなく、S・O・Dの組み合わせに基づいて「High(高)」「Medium(中)」「Low(低)」を判定するロジックテーブルです。
これにより、「点数の掛け合わせによってリスクが低く見えてしまう」といったばらつきを排除し、規格で定義された基準に従って、客観的に対策の優先順位を決定できる仕組みになっています。
AIAG-VDA 統合FMEAの7ステップ概要
この規格では、分析の手順として以下の「7ステップ」が定義されています。

Step1~3|構造・機能を定義するフェーズ

ここが従来のやり方と最も異なり、かつExcelの管理では限界を感じられる個所です。
それぞれStepごとに詳しくみていきましょう。
Step1:計画および準備(プロジェクト範囲の決定)
「何を分析して、何を分析しないか」を決めます。
これまでのFMEAは、範囲が際限なく広がり、時間が足りなくなることが常でした。あるいは、担当者が把握していることの限界がFMEAの限界になることもありました。
そのような場合に、例えば「5T(チーム、タイミング、ターゲット、ツール、タスク)」というフレームワークを用い、プロジェクトの境界線を明確にすることで、その後の解析をスムーズに進めることができます。
Step2:構造解析(システム構成の可視化)
対象となる製品について、「システム(全体)」→「サブシステム(組立品)」→「コンポーネント(部品)」という階層構造(ツリー図)で整理します。
Excelの行(リスト)では、部品同士の親子関係が見えにくく、抜け漏れの原因になります。
VDA流儀では、ここで「構造ツリー」を作成し、視覚的に製品の構造を定義します。
Step3:機能解析(各要素が果たすべき働きの定義)
Step2で整理した各要素に対し、「何をするものか(機能)」を定義します。
例えば、「モーター(部品)」の機能は「回転トルクを生むこと」であり、それが「ワイパーシステム(組立品)」の「雨を払拭する」という機能にどう貢献しているか、という「機能ネット(機能の繋がり)」を構築します。
この「機能の連鎖」が見えていないと、次のステップで論理的な故障解析ができません。
Step4~5|故障とリスクを分析するフェーズ
Step1〜Step3を経て正常な機能が定義できて初めて、「それが機能しないこと=故障」を論理的に導き出せます。
以下、Step4〜Step5について解説します。
Step4:故障解析(故障のネットワーク構築)
Step4では、Step3の「機能」を裏返しにして「故障」を定義し、それらを因果関係で結びます。

ここで重要なのは、「原因(下位) → 故障モード(焦点) → 影響(上位)」という3層のリンク(故障のネットワーク)を作ることです。
例えば、以下の通りです。
- 原因(下位):内部コイルが断線した
- 故障モード(焦点):モーターが回転しない
- 影響(上位):ワイパーが動かず、視界が確保できない
Excelでは、この「3段論法」を横一列のセルに入力するしかなく、部品が変わるたびにコピー&ペーストを繰り返すため、論理の整合性が崩れやすくなってしまいます。
Step5:リスク分析(S/O/Dの評価とAPの決定)
Step4で構築した故障ネットワークに対し、現在の管理策(予防策・検出策)を割り当て、リスクを定量化します。
- 予防策: 故障原因の発生を防ぐ策(これをもとに発生度Oを評価)
- 検出策: 故障原因やモードを見つける策(これをもとに検出度Dを評価)
- 影響度(S): 最上位への影響(Step4)をもとに評価
最後に、これらS/O/Dの3つの組み合わせから、規格で定められたロジックテーブルに基づき、AP(アクション優先度:High/Medium/Low)が決定されます。
Step6~7|改善と文書化のフェーズ

最後のStep6〜Step7は、分析して終わりではなく、対策を実行し、それを資産として残すフェーズです。
Step6:最適化(対策の立案と実施)
AP(アクション優先度)が「High」または「Medium」となった項目に対し、具体的な対策(設計変更や評価試験の追加など)を立案します。
ここでは、「誰が、いつまでにやるか」を決定し、対策後の再評価(リスクが下がったか)までを追跡します。
FMEAが「書きっぱなし」になるのを防ぐための重要なフェーズです。
Step7:文書化(結果の報告)
分析結果について、顧客や社内ステークホルダーへ報告します。
ここで初めて、見慣れた「FMEAフォーマット(帳票)」の形で出力されます。
重要なのは、この文書が「固定されたレポート」ではなく、設計変更や市場不具合が起きるたびに更新され続ける「生きた資産」のベースラインとなることです。
【現地レポート】FMEAを「生きた知識ベース」へ|AUMA社の挑戦

「FMEAを作っても、市場での不具合対応に活かされていない」
この問題に対し、ドイツの産業用アクチュエータメーカーAUMA社が示した解決策は、FMEAを「社内言語の翻訳機」として使い、ナレッジベースを構築することでした。
同社の製品は砂漠から北極圏まで過酷な環境で使用され、20年以上の耐久性が求められます。
しかし、市場から来る「動かない」という顧客の声と、サービス技術者の診断「モーターの故障」、そして設計エンジニアが分析する「基盤の腐食」の間で技術用語が異なっており、データが繋がっていませんでした。
そこで彼らは、FMEAの3つの要素を以下のように3階層の構造に定義し直しました。
- 故障の影響(Effect): 顧客の声(例:動かない、応答がない)
- 故障モード(Mode): サービス技術者の診断(例:モーターの故障、通電していない)
- 故障の原因(Cause): 設計エンジニアの分析(例:基板の腐食、経年劣化)
AUMA社では、2,800名以上のサービス技術者やエンジニアの知見を集約し、この3層構造を活用しながら、故障のリスト(カタログ)を作成し、顧客の曖昧な不満から根本原因までを一気通貫で追跡可能にしました。
さらに、このリスト(カタログ)にない故障が発生した場合は「FMEAの考慮漏れ」と見なし、即座に設計へフィードバックする仕組みを構築。
FMEAを表や書類のツールではなく、市場の知見を吸い上げ続ける「生きた知識ベース」へと昇華させました。
既存のFMEAからAIAG-VDA 統合FMEAへ移行するタイミングと手順
AIAG-VDA 統合FMEAへの移行にあたり、最も多いご相談が「過去のExcel資産をツールにインポートして再利用できないか?」というものです。
結論から言えば、「実行は可能だが、推奨しない」ケースがほとんどです。その理由は、データの「形式」や「質(構造)」の決定的な違いにあります。
なぜ「Excelからの単純移行(コピペ)」が失敗するのか
従来のFMEA(AIAG 第4版など)とAIAG-VDA 統合FMEAでは、求められる情報の解像度が異なります。
既存のExcelデータをそのままツールに流し込んでも、例えば、以下の理由から、AIAG-VDAが求める分析レベルには到達しません。
- 「構造」「機能」情報の欠落
従来のFMEAは「故障」から書き始めることが多かったため、AIAG-VDAで必須となる「Step2:構造解析」や「Step3:機能解析」の情報がそもそも存在しない、あるいは貧弱であることです。
これを無理に移行しても、構造や機能の欄が空欄(スカスカ)になっている個所が多く、論理が繋がっていないデータになる場合があります。
- 「4M」視点の不足とヒューマンエラーへの偏り
従来のFMEAでは、原因分析が「作業者の確認ミス」「ポカ」といった「人(Man)」の要因に偏りがちでした。
しかし、AIAG-VDAでは「なぜ人はミスをしたのか?(手順が悪かったのか? 表示が見にくかったのか?)」という、4M(Machine, Material, Method, Man)の観点での深掘りが求められます。
浅い原因分析のまま新規格に移行しても、AIAG-VDAが目指す「技術的な未然防止」には繋がらず、ツールの効果を得られません。
推奨される移行の3ステップ

すべての既存製品を直ちに書き換える必要はありません。
一つの考え方として、以下のステップで段階的に構築することをお勧めします。
- モデル選定
「新規プロジェクト」または「設計・工程に大幅な変更が入る製品」を一つ選びます。 - ゼロベース構築
既存のExcelを流用するのではなく、そのモデル製品について、Step1-3の手順に沿ってゼロから構造・機能を定義し、Step4の故障解析やStep5のリスク分析を行います。
遠回りに見えますが、ここで「正しい型」を作ることが最短ルートです。 - 横展開
一度、正しく構造化されたマスターモデルが完成すれば、類似製品への展開はそれをコピー(再利用)するだけで済みます。
まずは「正しい構造」を体験することから
「自社の既存データをどこまで活かせるのか」「何から手をつければいいのか」は、製品の特性やこれまでの管理状況によって異なります。
構造計画研究所では、AIAG-VDA 統合FMEAに準拠した分析ツール「e1ns(アインス)」の導入支援だけでなく、お客様の現状データを確認した上での移行プロセスのご提案も行っています。
「Excel管理に限界を感じているが、移行のハードルが高い」とお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
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AIAG-VDA 統合FMEAフォーマットの考え方
AIAG-VDA FMEAのフォーマットは、「7ステップ」という思考プロセスそのものについて、左から右へと流れるように可視化したものです。
最大の特徴は、冒頭に「構造解析(Step2)」と「機能解析(Step3)」の記述欄が独立して設けられている点です。
これにより、「どの部品の(構造)、どの働き(機能)が失われたのか」という前提を定義しない限り、右側の「故障モード」や「リスク分析」に進めない仕組みになっています。
つまり、このフォーマットは「いきなり故障を書く」という従来のやり方を封じ、論理的な分析を実行するツールとして設計されているのです。
AIAG-VDA FMEAフォーマットの特徴
AIAG-VDA FMEAのフォーマットは、左から右へ「構造→機能→故障→リスク→対策」と、因果関係が鎖のように繋がるように設計されています。
Step2(構造)とStep3(機能)の情報がStep4(故障)の入力情報となることで、「前提が定義されていない故障は書けない」という、論理的な分析を強制する仕組みになっています。
しかし、このフォーマットの背景には、記入ルールの変更以上の意図があります。
それは、IATF 16949が強く要求する「データの一貫性」と「機密保持」の追求です。

1. 一貫性の維持とファイル管理の限界
FMEAは、設計変更や市場不具合が発生するたびに更新され続ける「生きている文書」です。
しかし、Excelなどの「ファイル」で管理している場合、コピー&ペーストによってファイルが量産され、「どれが最新版か分からない」「あるファイルの修正が、関連する別のファイルに反映されていない」といった不整合が頻発します。
AIAG-VDAフォーマットが求める緻密な分析において、このリンク切れや版管理の破綻は致命的であり、規格が求める「継続的改善のトレーサビリティ」を証明することが困難になります。
つまり、Excelを派生させる(コピペする)ような大量のファイルによる版管理は、書いた本人は理解していたとしても、それ以外のメンバーはすべてのファイルの中身を参照するわけではないため、使われない資産になりがちです。
また、「FMEAを表にすること」を目的にしてしまい、コントロールプランとのデータ連動や量産後の不具合対応(8Dレポートなど)まで繋げることができない、あるいは他システムとの連携が視野に入っていない「狭い範囲のFMEA活用」は非常にもったいないと感じます。
2. 知的資産としての機密保持
構築したFMEAには、顧客と契約した機密情報、企業の設計思想、独自のノウハウ、そして過去の失敗事例(過去トラ)という、極めて重要な「知的資産」が凝縮されています。
これをファイル単位で管理し、情報をやり取りすることは、メール誤送信や持ち出しによる情報漏洩リスクと常に隣り合わせであることを意味します。
また、ファイルサーバーに置くだけでは、「誰が・いつ・どの項目を閲覧・編集したか」という詳細なアクセスログも残りません。
新規格に対応するということは、FMEAを表や書類としてではなく、厳格なアクセス権限の管理が必要な「データベース」として扱う体制への転換を意味しているのです。
フォーマット導入時によくある誤解
「新しいExcelのテンプレートさえ入手すれば、新規格に対応できる」
これは、移行期に最も陥りやすい誤解です。
繰り返しになりますが、FMEAフォーマットはあくまで、7ステップによる分析結果を最終的に出力した「レポート(結果)」に過ぎません。
重要なのは、その裏側にある構造化や機能定義といった「分析プロセス」そのものです。
このプロセスを経ずに、ただ新しい表の空欄を埋めるだけの作業は、実態としては形を変えただけの「従来のFMEA」です。
それでは、規格が意図する「未然防止」には繋がらず、単に記入項目が増えて現場が疲弊するだけ、という最悪の結果を招きかねません。
「表(入れ物)」を変えるのではなく、「作り方(中身)」を変える意識が必要です。
AIAG-VDA 統合FMEAが「難しい」「意味がない」と感じられる理由

AIAG-VDA 統合FMEAに取り組む現場から「難しすぎて進まない」「やる意味が見いだせない」という声が上がるのには、明確な理由があります。
それは手順と目的のボタンの掛け違いです。
従来FMEAの延長で進めてしまう
最も多い挫折のパターンは、AIAG-VDAのフォーマットを「単に列が増えたExcel帳票」と捉え、従来と同じ感覚で表を埋めようとすることです。
しかし、新規格は「Step2:構造」と「Step3:機能」が定義されていることを前提に「Step4:故障」を記述する仕組みになっています。
この準備工程を飛ばして、いきなり故障モードを書き込もうとするのは、設計図なしに家を建てるようなもので、形を変えただけの「古いFMEA」です。
結果として、因果関係の辻褄が合わなくなり、パズルのような入力作業に忙殺され、「FMEAは複雑で面倒だ」という印象だけが残ってしまいます。
評価基準や前提条件が揃っていない
評価基準(S/O/D)やリスク判定(AP)のルールが、メンバー間で曖昧なままスタートしてしまうケースです。
AIAG-VDAでは、リスク評価の基準が厳格化されています。
従来の社内ローカルルール(感覚的な点数付け)を持ち込むと、新規格の基準と衝突し、「なぜこの点数になるのか」という議論に陥ってしまいます。
また、どこまでを「故障」とみなすかという前提や範囲が決まっていないと、重箱の隅をつつくような細かい事象ばかりが列挙され、肝心なリスクが埋もれてしまう「木を見て森を見ず」の状態に陥ります。
目的が共有されていない
これが「やらされ仕事」を生む最大の要因です。
例えば、管理層や営業が「IATF認証のため」「監査や顧客提出のため」という「対外的な義務」をゴールに設定する一方で、現場が「多忙な開発の合間に行う余計な作業」と捉えてしまうような状態は好ましくありません。
「FMEAは、手戻りを防ぎ、自分たちの技術を資産として残すためにやるものだ」という「自分たちのためのメリット」が腹落ちしていない限り、どれだけ高機能なツールを導入しても、魂の入っていない仏像を作る作業になってしまいます。
【現地レポート】目的の共有「腹痛のする懸念点」|Infineon社の取り組み

「あなたにとって、腹痛のする懸念点はどこにあるだろうか?」
半導体大手Infineon社は、FMEAの実施にあたり、上図のように推進者(モデレーター)と一緒に、技術者が「腹痛を覚える」ほど懸念している重大なリスクを事前に特定し、議論を構造化するアプローチを実践しました。
この事前準備により、会議では参加者全員に関連する本質的なリスクや課題のみに集中でき、形骸化を防ぐとともに、エンジニアのエンゲージメントが劇的に向上しました。
結果として、製品構造への理解深化や効率的なリスク低減に繋がるという大きなメリットを生み出しています。
AIAG-VDA 統合FMEAを現場で活かすための考え方
AIAG-VDA 統合FMEAへの対応は、一足飛びには実現できません。
以下に現場の混乱を避け、着実に成果を出すための指針をご紹介します。
最初から完璧を目指さない
目に見える成果を出すには、「スモールスタート」から始めるといいでしょう。
いきなり全ての製品、全ての部品に対して7ステップを適用しようとすれば、膨大な工数を前にプロジェクトは頓挫します。
まずは「重要な部品」や「新規開発ユニット」など、対象範囲を限定したモデルケースを一つ作ってください。
すべての欄を埋めることよりも、「Step2:構造解析」で製品の構成図を描いてみる。
それだけでも、今まで見えていなかった「設計の抜け漏れ」に気づくことができ、新規格の有効性を実感できるはずです。
「評価の共通言語」を揃える
専用ツールを導入することは非常に大切ですが、それを扱うための「ルール」が揃っていなければ機能しません。
これには2つの側面があります。
一つは、「評価基準(物差し)」の統一です。
S(影響度)・O(発生度)・D(検出度)について、「どのような状態を『発生度:高』とするか」という基準が人によってバラバラでは、ツールに入れても正しいAP(アクション優先度)は算出されません。
もう一つは、「用語(言葉)」の統一です。
先ほどのAUMA社の事例のように、市場からの「動かない」という声を、サービス技術者は「モーターの故障」と呼ぶのか、それとも「通電不良」と呼ぶのか。ここが定義されていないと、ツールの中に曖昧なデータが溜まるだけです。
まずは、この「数字の物差し」と「言葉の辞書」を統一することが、FMEAの精度を高める第一歩です。
外部視点を入れるメリット

社内メンバーだけで進めると、どうしても「これまでのやり方」や「自社特有の解釈」に引きずられ、規格の本質を見誤ることがあります。
また、「自分の設計した製品にケチをつけたくない」「主観的に評価することへのためらいを感じる」というバイアスも働きます。
そこにFMEAの専門家やコンサルタントといった「第三者の視点」を入れることで、客観的なリスク指摘が可能になります。
さらに、難解な規格の解釈に悩む時間を削減し、他社の成功事例に基づいた「最短ルート」で運用体制を構築できたり、継続的な改善サポートを受けられたりするというメリットもあります。
IATF 16949に準拠した運用を実現するために
IATF 16949が求めているのは、「FMEAという表や書類が存在すること」ではありません。不適合の予防と、継続的な改善が「システムとして機能していること」です。
多くの自動車メーカー(OEM)が顧客固有要求事項(CSR)でAIAG-VDA 統合FMEAを必須化している現在、この規格への対応はもはや避けて通れません。
しかし、複雑化した新規格を旧来のExcel管理で乗り切ろうとすれば、版管理の不備やデータの不整合が発生し、審査や顧客監査で「プロセスの不備」を指摘されるリスクが高まります。
真に規格に準拠した運用とは、審査のための一時的な書類作りではなく、設計変更や市場フィードバックが即座にリスク分析へ反映される「トレーサビリティ」が確立された状態です。
AIAG-VDA FMEAへの移行は、様式の変更ではなく、グローバル基準に対応できる「知的資産」へと進化させるための課題と言えるでしょう。
よくある質問(FAQ)
現場の技術者から寄せられることの多い疑問について、「本質的な観点」から回答します。

Q. AIAG-VDA 統合FMEAへの移行は必須ですか?
A. 顧客固有要求事項(CSR)で指定されている場合は必須です。
そうでない場合でも、IATF 16949認証を維持する、あるいはグローバルサプライチェーンでの競争力を保つためには、新規プロジェクトからの適用が強く推奨されます。自動車業界では、実質的な「業界標準」になりつつあると考えてください。
近年では航空宇宙、半導体、電子部品、医療機器など、高い信頼性が求められる分野でも採用が進んでいます。
「故障が許されない」製品を扱うすべての製造業にとって有効な手法です。
Q. 従来のFMEAとの最大の違いは何ですか?
A. 「7ステップ」という手順が導入された点と、リスク評価が「RPN(リスク優先数)」から「AP(アクション優先度)」へ変更された点です。
しかし最大の違いは、帳票を埋めることよりも、その前段階である「構造と機能の解析」に重きを置いている点です。
Q. AIAG-VDA 統合FMEAのフォーマットはExcelで対応できますか?
A. フォーマット(枠)を作ることは可能ですが、運用は困難です。
構造解析や機能解析とのデータの繋がり(リンク)をExcelで管理しようとすると、マクロを一生懸命作った労力の割に、変更時の不整合やコピペミスが頻発するでしょう。
規格が求める「正確性」と「継続的改善」を担保するには、専用ツールの利用が現実的です。
Q. AIAG-VDA 統合FMEAは難しいと言われる理由は?
A. 従来の「記入作業」に加え、論理的な「システム分析」が求められるためです。ある程度の学習も必要です。
しかし、「難しい」というより「本来やるべき設計検討を可視化した」と言えます。
慣れれば手戻りが減り、トータルの業務効率は向上します。
Q. AIAG-VDA 統合FMEAハンドブックを読まないと理解できませんか?
A. 規格の原文(一次情報)として、手元に置いておくことを強くお勧めします。
ただし、ハンドブックは非常に専門的で難解なため、独学で読み解くには時間がかかります。
まずは専門家の研修を受けたり、規格に準拠したツールを触ったりしながら、実践を通じて理解を深めるのが近道です。
まとめ|AIAG-VDA 統合FMEAは「書き方」より「運用設計」が重要

AIAG-VDA 統合FMEAへの移行は、「帳票フォーマットの変更」ではありません。
「個人の経験と勘」に依存していた品質マネジメントについて、「論理的なシステム構造と機能を紐解く思考プロセス」に基づき、組織の「知的資産」へと進化させることが重要です。
新しいルールの書き方を覚えること以上に、「自社の製品をどのように構造化して機能を定義し、故障のナレッジをどう循環させるか」という運用そのものを設計することです。
最初はハードルが高く感じるかもしれませんが、この「急がば回れ」のプロセスを経ることで、FMEAは「提出のための表や書類」から「設計や工程を強くするツール」へと生まれ変わります。
AIAG-VDA 統合FMEAは、顧客や監査への言い訳を作るために使うのではなく、自分たちの製品やサービスをより深く理解し、自信を持って世に送り出すためのプロセスを把握するツールとして有効活用することが大切です。
構造計画研究所では、世界標準のFMEAツール「e1ns(アインス)」の提供だけでなく、お客様の現状データの診断や、無理のない移行プロセスや各種教育のご提案も行っています。
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著者紹介
[S.Y]
株式会社構造計画研究所 品質安全デザイン室
著書:『IATF 16949のための統計的品質管理』(日科学技連出版社)他。
IATF 16949認証取得のための運用支援や、FMEA、統計的品質管理のコンサルティング・教育に従事。
現場のデータ活用とQMS(品質マネジメントシステム)のDX化を専門とする。